近年企業が社内の制度として導入しているものに「ワーケーション制度」があります。ここでは、企業が制度として導入する際に知っておくべき基本的な定義から、タイプ別の特徴、導入メリットとリスク、具体的な設計・運用のポイントまでを徹底解説します。自社に最適な制度設計のヒントを提供します。
ワーケーション制度とは？ ワーケーション制度の種類と分類
まず、ワーケーション制度がどのようなものか、その基本的な定義と種類について理解を深めましょう。ワーケーションには、その目的や期間、費用負担などによっていくつかの種類に分類できます。自社に最適なワーケーション制度を検討する上で、これらの分類を理解することは非常に重要です。
休暇型ワーケーション（福利厚生型ワーケーション）
休暇型ワーケーションとは、従業員が取得する有給休暇の一部を、ワーケーション期間として活用するタイプの制度です。企業は、ワーケーション中の宿泊費やコワーキングスペースの利用料の一部を補助するなど、福利厚生の一環として従業員を支援します。
このタイプのワーケーションは、従業員の自主的な意思に基づいて取得されることが多く、心身のリフレッシュや自己啓発を目的とするケースが一般的です。企業にとっては、従業員満足度の向上や福利厚生の充実によるエンゲージメントの強化といったメリットがあります。一方で、業務効率の向上といった直接的な成果には結びつきにくいというデメリットも存在します
業務型ワーケーション（事業活動型ワーケーション）
業務型ワーケーションとは、企業が主体となって、業務の一環として実施するタイプのワーケーションです。たとえば、チームビルディングや研修、新規事業創出のための合宿、さらには地方創生プロジェクトへの参加などがこの形態に該当します。こうした取り組みでは、ワーケーション中の活動時間が業務時間とみなされることが一般的であり、交通費や宿泊費などの必要な費用も企業が負担するケースが多くなります。
この制度は、企業が明確な目的をもって実施する点が特徴であり、業務の効率化やイノベーションの創出、地域貢献といった目的の達成を目指します。企業側にとっては、新たなアイデアの創出、チームワークの強化、生産性の向上、企業ブランディングといったメリットが期待されます。一方で、費用負担が大きくなることや、業務内容との整合性を保つ必要があるといった課題も伴います。
ワーケーション制度導入のメリット・デメリット
ワーケーション制度は、企業と従業員双方に大きな恩恵をもたらす可能性がある一方で、考慮すべき課題も存在します。ここでは、それぞれの立場から見たメリットとデメリットを具体的に見ていきましょう。
ワーケーション制度導入の企業にとってのメリット
詳しくはこちらの関連記事に譲りますが、以下の4点がメリットとして挙げられます。【関連記事】ワーケーションのメリットとは？個人・企業・地域別に徹底紹介！
【従業員エンゲージメントの向上】柔軟な働き方が可能になることで、従業員の満足度やモチベーションが高まり、定着率向上に繋がります。
【優秀な人材の確保】ワーケーション制度の導入は企業の魅力を高め、場所に縛られない採用が可能となるため、採用力が向上します。
【企業イメージの向上】多様な働き方を認める企業文化はブランド価値の向上に繋がります。
【BCP強化】場所に縛られない働き方は、有事でも事業を継続しやすく、危機対応力を高めます。
ワーケーション制度導入の企業にとってのリスク、課題
まず挙げられるのが、勤怠管理や労務管理の複雑化です。オフィス以外の場所で勤務することで、労働時間や休憩時間の把握が難しくなり、新たな勤怠ルールやシステムの整備が求められます。
さらに、情報セキュリティリスクの増加も無視できません。公共のWi-Fiを利用する場面などでは、情報漏洩や不正アクセスといったリスクが高まります。そのため、VPNの利用義務化や端末のセキュリティ管理、従業員への教育など、万全な対策が求められます。
また、企業側の費用負担が増える点も課題です。交通費や宿泊費、コワーキングスペースの利用料など、企業が負担する費用が増加するため、導入には予算の確保と費用対効果の検証が必要になります。
ワーケーション制度の具体的な設計・導入ステップ
ワーケーションを制度として導入するには、目的の明確化から設計、運用、改善まで段階的な準備が欠かせません。制度設計は「目的 → ルール作成 → 運用 → 評価と改善」のサイクルを意識することが成功の鍵となります。必要に応じて専門家のアドバイスを受けながら、段階的に導入していくのがおすすめです。
ワーケーション制度の導入目的の明確化と現状分析
まず、「エンゲージメント向上」「生産性向上」「人材確保」「ブランディング強化」など、導入目的を明確にします。その上で、組織の文化やIT環境、予算などを確認し、実現可能性を判断します。
ワーケーション制度の基本設計
目的に応じて「休暇型」「業務型」などの制度タイプを選定します。対象者の範囲（全社・一部）、実施期間（例：年2回、最長2週間）、費用の負担割合、勤務地の条件（国内限定・通信要件など）もルール化します。申請～承認の流れも事前に整えておくことが重要です。
就業規則と労務ルールの整備
就業規則には、勤務場所や労働時間制度との整合性、勤怠管理の方法（打刻・報告ルール）、労災適用の範囲などを明記します。業務指示の系統や、通信費・セキュリティ費用の取扱いも明確化しましょう。
ITインフラとセキュリティ対策
安定したネット環境（VPN・Wi-Fi貸与など）の整備、クラウドツール（会議・管理・チャット）の導入、PCのセキュリティ設定（暗号化、ウイルス対策、教育）などが必要です。
従業員への周知と教育
制度の内容や利用手順を説明会やガイドラインで周知し、セキュリティ面も含めた教育を実施します。
制度導入後の評価と改善
利用者へのアンケートやヒアリングを通じて満足度や課題を把握し、エンゲージメントや生産性などの効果を測定。結果に基づいて制度を柔軟に改善していくことが重要です。
ワーケーション制度導入を成功させるための実践的ポイント
まず明確で分かりやすいルールとガイドラインの策定が不可欠です。利用条件や申請手続き、費用負担、労働時間、セキュリティ対策などを明文化し全従業員に周知徹底することが、トラブルの回避につながります。なお、就業規則の改定や労働時間管理、労災の取り扱いなどは専門家への相談を通じて法令遵守を徹底することが望まれます。
またリモート環境でもチームの連携が保てるよう、Web会議やチャットツール等を積極的に活用し、意識的にコミュニケーションの維持に努める必要があります。
加えて、制度の導入は小規模から始めて徐々に拡大する「スモールスタート」が効果的です。試行運用を通じて課題を洗い出し、フィードバックを反映させながら制度を改善していくことで、リスクを抑えてスムーズに全社展開が可能となります。
ワーケーション制度について、その定義から種類、企業のメリット・デメリット、具体的な導入ステップ、そして成功のための実践的ポイントまで解説してきました。従業員の心身の健康と生産性の向上、優秀な人材の確保、そして企業のブランディング強化など、ワーケーションがもたらす恩恵は計り知れません。自社に最適なワーケーション制度を構築できた企業は、来るべき変化の時代において、より強く、より魅力的な組織へと成長していくことができるでしょう。
